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それは ちいさなデアイで あった

しかし その ちいさな ムスビツキは ツヨク

 


 

 

一面を生い茂る麦畑、その色は輝くような黄金色。

そんな黄金色の麦畑の中を忙しなく動く緑が一つ。

 

年の頃は十歳くらいだろうか、その少年の肌は麦畑を支える大地と同じく

よく陽に焼けた褐色の肌、長く伸びた髪は後ろで結え

余ってしまった前髪を左目を隠すように垂れ流している。

その少年の髪と瞳の色は、まるで生まれたばかりの「若草」のような色をしていた。

 

その少年は一心不乱に生い茂る麦を刈る。

途中、鋭い新緑に手を切りながらも、懸命に、一心不乱に麦を刈っていた。

 

ある程度刈り終え一息つくと、今まで刈り集めた麦を抱え緩めの上り坂をえっちらおっちら歩く。

その少年の目指す場所は聖堂。

少年は聖堂のシスターに集めた麦を手渡し

感謝の言葉と共に深く不思議な青い色をした水の入った小瓶を受け取ると

すぐさま元来た道を戻る。

最後まで別れの言葉をかけるシスターに背を向けたままで右手を軽く上げる。

少年の別れの仕草は、無骨な、ただそれだけ。

 

すっかり陽が落ち、宵闇が辺りを包み込む。

その中で焚き火をするその少年の姿があった。

獣は火を恐れる習性があるため

家を持たず、宿を取らぬ少年にとって、その火は外敵より身を守る今の唯一の方法でもある。

その火に、昼間調達してきた肉を炙りながら、その少年は物思いに耽っていた。

 

明日の事、その先の将来の事、自分の居場所の事。

考えれば考える程に考えは悪い方向へと傾く。

少年の頭も肉から火から離れ、地を見つめる程に傾く頃、何かの気配を感じ取った。

 

咄嗟に彼はすぐ左に置いてある大剣へと手を伸ばし、気配の方向へ目を向ける。

それだけではなく、周囲へと意識を働きかける。

 

じっと一点を見つめていると、小さな影が自分へとゆっくりと近づいてくるのが

焚き火の明かりで見えるようになってきた。

近づいてくるそれは、少し汚れた、赤に近い褐色の体毛をした仔狐であった。

その仔狐は、少年の殺気立った目に威圧され、二歩三歩と後退する。

また少年も、殺気立った目を解放することなく逆に警戒を強めていく。

仔狐がいるということは近くに親狐、またはその仔狐の群れの仲間がいる可能性があるのだから。

しかし、一向にその仔狐以外に別の気配を感じない。

そしてその仔狐も、その少年との距離を一定に保ち、少年の様子を伺うようにしていた。

 

不意に小さな音が、その仔狐の腹部の辺りより聞こえた。

仔狐の顔が赤らんだように見え、少し俯く。

どうやらその仔狐は腹を空かしているようだ。

どんなに気配を探っても、辺りに視界を移しても、他に仲間がいるようには見えない。

どうやらこの仔狐は親または群れからはぐれたのだろう。

 

まだ親元を離れられないであろう仔狐に同情したのか

良い具合に焼けた肉の切れ端をその仔狐に投げ与える。

欲求には勝てないのだろうか、恐る恐るではあるが仔狐はその肉へと近づく。

匂いを嗅ぎ、少し舐める。

まだ少し熱かったのであろうか、顔を近づけては離し、離しては近づける、という行為を何度も行っている。

少し可哀想に思えてきたのであろう、少年は新しく肉の切れ端を取ると、息を吹きかけ冷まし

その仔狐へと与える。

今度は投げるのではなく、優しく、そばまで寄って、与えてやる。

今度は食べやすかったであろうか、引っ手繰るように肉を奪うと

まだ熱いのであろうにも関わらず、必死に肉を食らい続ける。

その姿を見て少年は若干の笑みを浮かべ、残っている肉を冷ましてやり、その仔狐に与えた。

 

ひとしきり食べ終えて満足したのだろう

少年へと近寄り、その脇で体を丸め

静かに寝息を立てるのであった。

よっぽど疲れてたのであろう、その仔狐は安心できる場所を見つけた喜びのせいか

その顔には安堵の色が浮かんでいた。

 

少年は思う、この仔狐は人懐っこい性格なんだろうなと。

そんな仔狐の姿を見ていると、少年も眠気に襲われた。

少年も眠気に任せ、体を横たえらせると、その場にうずくまり、小さな寝息を立て始める。

 

 

寄り添うように眠る一人と一匹には

その出会いは小さいものであろうが

明日を生きるためには十分過ぎる程の

大きな出会いであった。

 

 

 

 

コメント:もう少し続けたかったのですが、あんまり長ったらしくするのも悪いここらで今回はおしまい。

続きはまた今度。

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無題
これから、この出会いを通して
少年がどんな道を歩んでいくのかが楽しみですね~☆
リトルラビ 2006/10/26(Thu)11:26:42 編集
ラビさんへ
出会いは一期一会ですからね
その中で少年がどう成長して、どう歩んで行くのか
全ては書き手である俺にかかってくるんですよね

でもね、思うんです
よく書き手がその主人公が勝手に物語を動いてるって状態があると
俺にはまだ無いですけれど、出来れば少年には好きなように動いて欲しいと
若菜草@管理人 2006/10/31(Tue)08:05:18 編集
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